「コミュニティーフリッジ(公共冷蔵庫)」と呼ばれる仕組みが広まりつつあります。
これは、生活に困っている人が寄付された食料品や日用品を24時間無料で受け取れる、助け合いのための冷蔵庫です。
また、食品ロスの削減にも貢献する取り組みとして注目されています。
(※2025年1月13日 朝日新聞の記事を参考に要約しています。)
助け合いの場「コミュニティフリッジ草加」 食品ロス削減と食料支援を両立
「ありがとうございます」「本当に助かっています」――。埼玉県草加市のスーパーの一角にある「コミュニティフリッジ草加」の壁には、利用者からの感謝の言葉が貼られています。
この取り組みは、草加商工会議所青年部によって運営されています。
昨年12月上旬に訪れると、約15平方メートルのスペースに冷蔵庫と冷凍庫が1台ずつ設置され、陳列棚には野菜やドレッシングなどの食品が並んでいました。
「食品ロスの削減と食料支援の両立を目指したい」と語るのは、運営を担当する植田全紀(まさき)さん(44)。
かつてスーパーを経営していた際、大量の食品廃棄に悩んでいたといいます。
そんなとき、岡山市で始まった公共冷蔵庫の取り組みを知り、2022年6月に導入を決意しました。
地域で支える「コミュニティフリッジ草加」食品提供の仕組みと広がる支援
食品は、市民や企業から提供されています。
現在、約30社が協力し、2024年度には約5万点、計18トン相当の食料が寄付される見込みです。
利用には登録が必要で、対象は児童扶養手当や就学援助を受けている家庭となっています。
スマートフォンのアプリを通じて鍵のナンバーが共有され、利用者は入口のロックを解除して入室します。
また、アプリで在庫を確認し、必要な食品を選んで持ち帰ることができます。
現在の登録世帯数は約650。植田さんによると、「物価が上がり、食品を買うのが難しい。
こうして支援を受けられて助かる」といった声が最近増えているそうです。
「選べる支援」の大切さ。日本で広がる公共冷蔵庫の取り組み
公共冷蔵庫の仕組みは、2012年にドイツで始まり、スペインや英国、米国など世界各国に広がっています。
日本では、新型コロナウイルスの影響が続く2020年11月、岡山市に初めて設置されました。
これは、一般社団法人「北長瀬エリアマネジメント」が同市北区の複合商業施設内に設けたものです。
「この取り組みは、『支え合い』や『地域のつながり』を大切にする思いから始まりました」と語るのは、同法人の代表理事・新宅宝さん(36)。
同法人は再開発地域の街づくりを担っており、その一環として2020年7月、地域の困窮世帯1513人を対象に必要な支援を調査。その結果、半数以上が「食料や生活必需品の支援」を求めていることが分かりました。
これを受け、公共冷蔵庫の導入を決定したのです。
2024年12月時点で登録世帯は533に達し、1日約70世帯が利用しています。
「選べる支援」を大切に・・・全国に広がる公共冷蔵庫の役割
必要なものは家庭によって異なり、人目を気にする利用者もいます。
そのため、公共冷蔵庫は無人で24時間利用できる形にし、食料だけでなく、利用のタイミングも自由に選べるようにしました。
この仕組みの利点は少しずつ実感されつつあります。
ヨーグルトなどの乳製品や生鮮食品も並び、支援を受ける世帯がより多様な食事をとれる環境が整っています。
経済的に厳しい状況にある家庭では、食事が炭水化物に偏りやすいという課題があり、「栄養バランスの取れた食事をしてほしい」と、新宅さんは願っています。
また、食品管理や運営のノウハウは全国に広がり、現在では北海道から鹿児島まで20カ所で導入されています。
横浜発「フリーゴ」支え合いの冷蔵庫が生む温かいつながり
横浜市鶴見区で始まった「コミュニティ冷蔵庫フリーゴ」は、別のルートから生まれた取り組みです。
2020年6月、不動産業などを手がける木曽屋が自社ビル前に設置しました。
きっかけは、同社の中西美里さん(57)が数年前に英国の公共冷蔵庫の存在を知ったことでした。
寄付を希望する人は、ノートに記入し、食料を冷蔵庫に入れます。
受け取る側もノートに記録する仕組みです。
お中元のゼリーを寄付した人からは「減っていくのを見ると、温かい気持ちになります」との声も寄せられています。
冷蔵庫の管理は、中西さんが1日1回掃除を行い、これまで廃棄される食品は一切なかったそうです。
「自由で温かい仕組み。食品ロスを減らし、子どもたちに持続可能な未来を残せたらうれしい」と語ります。
農林水産省の推計によると、2022年度の「食品ロス」は472万トン(国民1人あたり約38キロ)にのぼり、これは国連世界食糧計画(WFP)が行う年間の食料支援量約480万トンとほぼ同じ規模となっています。